アーセナル回想録(試合編#1)

決勝弾を挙げたこの男の正体とは?

アーセナルのサポーターをやらせてもらって17年、数々の名勝負を見させてもらった。アーセナル回想録として、その中でもとりわけ心に残った試合をこのブログでは紹介したいと思う。

記念すべき第一弾は、個人的に17年間で最も興奮した試合。

2010-11 UEFAチャンピオンズリーグ ラウンド16 1st Leg vsバルセロナ

この試合をベストバウトに上げるちょいおじさんグーナーは多いんじゃないかな。

ハイベリーはアンフィールドと似ていて、スタジアムには”魂”があった。(中略)

エミレーツではそれを再現することはできなかった。

アーセン・ヴェンゲル

退任後にエミレーツ・スタジアムについてヴェンゲルはこう語った。セスクやナスリも同様のことを述べている。他クラブにサポーターからは”図書館”と揶揄されていた。エミレーツにその”魂”が戻りつつあるんだとしたらここ2年ぐらいだろう。

そんな”図書館”で一晩だけお祭りが行われた。後に文句を言っていた上記3名もこの宴を大いに盛り上げてくれたんだけどね。

ざっくりマッチレビュー

アーセナル 2-1 バルセロナ

アーセナル

アルシャビン 83′

バルセロナ

前半から互角の攻め合いを繰り広げるも、前半26分ビジャのゴールでバルセロナが先制。しかし後半78分にファン・ペルシーのボレーを沈め、5分後にアルシャビンが逆転弾を決めて、アーセナルが勝利。

ヴェンゲルのリベンジ

前年チャンピオンズリーグのベスト8に続き、2年連続の対戦となった両チーム。正直言ってもうこの時から両チームには雲泥の差があった。ホームでは試合開始からバルサの猛プレスに太刀打ちが出来ず、アウェイではメッシ一人に4点を叩き込まれた。普段リーグ戦でやっていたスペクタクルなポゼッションサッカーを、さらに上の次元で解らせられる。実に屈辱的な敗退になった。

再びバルサとの対戦が決まった時は絶望しかなかった。もうトラウマしっかり植え付けられてたからね。どうやって戦ったらええねんと。

さて、リベンジの時。その心配はすぐに大きな期待へと変わった。

アーセナルは完全受け身になった前年とは打って変わって、前からプレスをかける。皮肉にもバルサのように。中盤はソング、ウィルシャーを中心に、最終ラインはコシェルニー、そして”ロンドン王”ジュルーがとにかくソリッドだった。

攻撃では前年唯一手応えのあったウォルコットがこの対戦でも自信を感じさせるプレーを披露。確実にバルサゴールへ迫っていた。

バルサも黙ってはいない。やはりメッシ、シャビ、イニエスタはスーパーだった。プレスに慣れると、いつものようにボールを回し、アーセナルはなかなかボールを奪えない。ナスリなんかは明らかにイライラしていた。

そして期待とは裏腹に先制点を許す。しかし、いつもなら静寂化、”図書館”と化してしまう会場もこの日は選手たちを信じ続けていた。

後半も一進一退の攻防。メッシが決定機を逸せば、アーセナルも反撃に出る。そして遂にその時は来る。

左サイドでボールをキープしたアルシャビンがクリシーにボールを戻すと、ダイレクトで浮き玉のパス。ペナルティエリア左のポケットに侵入したファン・ペルシーに渡る。

「よし!クロs・・・」『Robin Van Persie !!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

そのまま得意の左足を振り抜いたロビン。クロスを気にしてニアを空けたバルデスの横を抜け、ボールはゴールへと吸い込まれた。前半決定機を外し続けたロビンが彼らしいゴールで得点!エミレーツのボルテージは最高潮!!何よりヴェンゲルの元へ駆け寄ってからのビッグハグが至高すぎるじゃないの!!!

フィナーレは復活したロシアの皇帝

いける!まだいける!!6万人のサポーターの後押しは更にアーセナルに力を与えた。自陣からうまく繋ぎ、前を向いたセスクが右の広大なスペースへアウトサイドスルーパス。そこに走り込んだのはイライラが収まってきたナスリ。

「いけえええええええ!!ナスリぃぃぃぃぃぃぃ!!!」慌てて戻るバルサ守備陣。詰まったかと思われたところで、絶妙なタイミングでペナルティアークに顔を出したアルシャビン。ナスリは丁寧にそこへパス・・・・・・・・

2010-11のアルシャビンは好不調の波が激しかった。それまでアーセナルの左サイドを牛耳っていたロシアの皇帝は、シーズン序盤こそスタメンだったが、不用意なロストやミスがかなり目立った。気付けばスタメンで彼の名前を目にすることは減っていて、この日も68分にソングと変わるまでベンチを温めた。

・・・・・ナスリのパスを柔らかいコントロールショットで合わせる。

『Arshaviiiiiiiiiiiiiiiiiiin!!!!!!!!!!!!!!!!!!』

バルデスの逆を突いて、遂に逆転!!!!

いやぁ、叫んだね。朝6時半とかだったかな。「ぃよっっしゃぁぁぁぁぁぁぁ!!!」飼ってた犬は朝からトチ狂った僕にわんわん吠えるし、寝てる親には「うるさい!」って怒られたけど、これは仕方ないんだ!

そこからはとにかくバルサの猛攻に耐える時間。自分の心の中の魚住がずっと「死守だっ!!シシューーーーッ!!」って叫んでた、汗だくで、早朝に。

ここで印象的だったのが、キャプテン・セスクの鼓舞。自らの守備でアウトプレーになると、セスクは両腕を振り上げてサポーターを煽っていた。今でこそ、ウーデゴールとかガブリエルがやってるのをよく見るけど、それまでは後にも先にもこの試合が唯一だった。それも、夏にバルサへの復帰が何度も噂されていたセスクがその姿を見せてくれたのが何より嬉しかった。

エミレーツで見たことのない光景。”図書館”は最早、大フェス会場。いや、それ以上の盛り上がりを見せた。

最後まで集中を切らすことなく、アーセナルはバルサに初勝利。この日だけは次のカンプノウのことなど忘れて、勝利を祝福した。

どうしたペップ

勝ちはしたが、バルサはやはり恐ろしいチームだった。しかし、敢えてバルサの敗因を一つ挙げるとしたら、68分の采配だろう。中盤に厚みを増やしたいペップはビジャに変えて、セイドゥ・ケイタを投入。いや、理にかなっている交代だと思った。

しかしそこから前からのプレスがなくなり、比較的にアーセナルは楽にボールを繋げるようになった。実際に交代から15分後に逆転劇は始まる。

ペップが負ける時は決まって奇策に溺れるっていうあるあるがあるけど、そんなトリッキーな感じでもないし、でもビジャが退いたのは結果的にアーセナルにとって追い風になったかな。

まあでも結局カンプノウでは返り討ちに合うわけですよ。さすがはバルセロナ。しっかり修正してきよるんですよ。シュート0だったんじゃないかな。ベントナー卿が最後決め切れてれば・・・そしてここから13年間、ベスト16を彷徨い続けて、挙げ句の果てにCLの舞台からも引き摺り下ろされます。

史上最高の勝利の代償デカすぎんだろ!!

世界最強に立ちはだかった、19歳の若武者

ここまで、ひた隠しにしてきたけど、この試合を語る上で欠かせない選手がいる。

ジャック・ウィルシャーは当時19歳。2010-11開幕からスタメンに定着するようになり、頭角を表し始めていた時だった。対峙するのは、シャビ、イニエスタ、ブスケツ。誰もが認める世界最高の中盤トリオ。

前述したが、前年のアーセナルはバルサをリスペクトしすぎるあまり完全に受け身になり、ボールをすぐに失っていた。ウィルシャーはいい意味でも悪い意味でもイングランドの若者らしい”クソガキ”(引退するまでそうだったかも笑)しかしそこには確かな技術が備わっていたし、この試合でスタメンなのも驚きはない。

このウィルシャーの”クソガキ根性”と”確固たる技術”がアーセナルを引っ張っていたのだ。バルサのシビアなプレスを得意のハーフターンやドリブルで躱してチャンスを演出し、「アーセナルを舐めるなよ?」と言わんばかりのタイトな守備で自由を与えなかった。

ここで話すために先ほどは割愛したが、アルシャビンの逆転ゴールの際の、セスクへ付けたダイレクトのパス。これで最早決まっていたと言っても過言ではない。83分という体力もピークにきている中で、冷静に最適なパスが出せるポテンシャルは末恐ろしいものがあった。

数年後、ウィルシャーはSNSでファンからこの試合について、「誰のプレーに感銘を受けたか」という質問にこう答えた。

学べることはなかったね。

あの夜、彼らは皆、僕のポケットの中で大人しくしていたんだから(笑)

Jack Wilshere

生意気だな(笑)このヤンチャさがサポーターにはブッ刺さるんだけどね。

「んな重たいもんポッケに入れてるから怪我すんだろ。」とイングランドらしい皮肉たっぷりのツッコミもセットで。

確かにその後の彼のキャリアは知っての通り、望むものではなかった。しかしこの歴史的な一戦でジャック・ウィルシャーの名は世界に轟き、今でもサポーターたちの語り種になっている。

個人的には17年間で最高の試合です。

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